住民の安全より、弾道ミサイル迎撃が“大事”
ブースターやロケット落下への不安に対し、防衛省は8月17日、小野寺五典防衛大臣名の「回答」で次のような見解を示しました。
①弾道ミサイルの迎撃は、大気圏外(高度100㎞以上)で行われ、迎撃によって生じた破片は大気圏に突入する際の熱により燃え尽きると考えています。
②なお、万一、燃え尽きない物があった場合における、それらの物体の落下位置は、運動量保存の法則により、発射地点というよりも、弾道ミサイルによる攻撃対象地点の近傍になることが予想されます。
③その上で、飛来する弾道ミサイルを放置した場合、弾道ミサイルに搭載された爆発物等により攻撃対象は甚大な被害を受けることが予想され、また、弾道ミサイルには核や化学・生物兵器が搭載される可能性があることも踏まえれば、これらを無力化し、被害を最小化するために、これは当然、破壊すべきと考えています。
この回答からは、防衛省は「ミサイルの残骸」(ブースター、2段目、3段目)をコントロールすることは想定せず、「地表に被害が出る」可能性は否定できないが、弾道ミサイルを放置すれば甚大な被害を受ける可能性があることを考えれば、当然、破壊すべき。要するに、住民の安全より、弾道ミサイル迎撃の方が大事だ、という姿勢だったことが見てとれます。
この回答を受け、県知事、萩市長、阿武町長は、9月12日、再度、次のような「照会」を行いました。
第一点は、「イージス・アショアヘの搭載が想定されている迎撃ミサイル・SM-3ブロックⅡAは、一段目ブースター、二段目ロケット、三段目ロケットから成る三段式ミサイルであるが、その飛翔時、各部分ばそれぞれ分離された後にどのように落下し、落下物が地上に影響を与えることはないのか」。
「照会」の第二点は、「一段目ブースターについては、(8月の)地元説明会において、落下地点をむつみ演習場内にコントロールできるとの説明があったが、具体的にはどのようにして、演習場内の施設等にも被害がないようコントロールするのか」。
「ブースターはコントロールできる」と公式に表明
10月4日、防衛省は回答しました。
一点目については、
①迎撃ミサイルであるSM-3は、弾道ミサイルを迎撃するために打上げられた後、一段目ブースター、二段目ロケット、三段目ロケット及びノーズコーンを飛しよう中に切り離します。これらの部位は、切り離し後、重力により自由落下します。
②一段目ブースターについては、演習場内などの、地元住民の皆様に危険が及ばないような位置に落下させるといった適切な措置を講ずる考えです。
③二段目ロケット、三段目ロケット及びノーズコーンの落下位置については、弾道ミサイルを迎撃する位置や気象条件等の影響を受けるため、一概にお答えすることは困難ですが、北朝鮮から飛来する弾道ミサイルの迎撃は海上で行われることが想定されることから、二段目ロケット、三段目ロケット及びノーズコーンは陸地から相当離れた海上に落下すると考えており、地元住民の皆様に危険が及ぶことはありません。
二点目については、
「一段目ブースターの燃焼中に燃焼ガスを噴射するノズルの向きを変更することによりミサイルの進行方向を制御する技術により解決されています。この技術により、一段目ブースターの燃焼中におけるミサイルの飛しょう経路をコントロールできることから、イージス・アショアからのSM-3の発射においても、演習場内など、地元住民の皆様に危険が及ばない位置に、一段目ブースターを落下させるといった適切な措置を講ずるとともに、一段目ブースターが演習場内の施設等に落下するなどしてイージス・アショアの運用や隊員の安全等に影響を与えることのないようミサイルの飛しょう経路を調整してまいります」と回答しました。
この時点で防衛省は、「一段目ブースターはコントロールできる」と公文書で断言したのです。
「少しの住民の被害があっても、たくさんの方が亡くなるより、まし」
同年10月13日、防衛省は再び、地元説明会を開催しますが、その際、配布された「住民説明会資料」には、ブースターを含めたミサイルの残骸の扱いについての記述は一切、ありませんでした。
そして、住民から「迎撃ミサイルを発射した際、切り離された2段目、 3段目はいったいどこに落ちるのか」と問われたのに対し、防衛省幹部は 「少しの住民の被害があっても、飛んでくるのを撃ち落とせて、たくさんの方が亡くなることを思ったら、よっぽどその方がましでしょう」と言ってのけたのです。
この“暴言”は、当然ながら、住民はもとより、萩市長、阿武町長の怒りを買い、防衛省は大きな軌道修正を余儀なくされます。
(続く)