くらし、福祉応援こそ「地方創生」の道
山口県の2020年度当初予算は、3月12日閉会した2月定例議会で採択されました。総額は前年度当初比113億円(1・7%)減の6741億円です(表1)。村岡嗣政知事は「『3つの維新』への更なる挑戦」予算と位置づけました。しかし、国際競争力強化のための港湾施設や幹線道路網の整備など従来の延長線上の施策が中心で、県民福祉の増進は二の次です。特徴と問題点を日本共産党の吉田達彦県政策委員長に聞きました。
看板の「維新」も行き詰まり
未来技術の活用に重点 PC導入より教員増を
―新年度予算の特徴は。
吉田 歳入では、昨年10月強行された消費税増税により、地方消費税は620億円と26%も増える一方、法人二税は収益悪化で、10%減の389億円を見込んでいます。歳出では、人件費が17年度からの行財政構造改革による定員カットにより、16年度比で84億円(640人削減)減少。単独公共事業費は県立大学整備や学校耐震化が山場を越したことなどで85億円(24%)減っています。
―村岡知事は、「『3つの維新』への更なる挑戦」予算と位置付けました。
前年以下の「維新」予算
吉田 産業、大交流、生活の「3つの維新プラン」の関連事業費(表2)の総額は1677億円(前年度比8・6%、159億円減)に留まり、「更なる挑戦」の行き詰まりを象徴しています。
―関連事業の特徴は。
吉田 「産業維新」には、778億円計上されていますが、うち400億円は中小企業制度融資に係る金融機関への預託金が占めています。産業力強化に関連した公共事業費は108億円で、高規格道路や大型港湾整備を中心とした公共事業のほか、下関北九州道路の事業化に向けた高速交通道路網調査費など不要不急の事業も継続です。「生活維新」に含まれた防災関連公共事業費は395億円で前年度比2%減です。
ソサエティ5・0とは
―知事は、「ソサエティ5.0時代を見据えた未来技術の活用」を強調しています。
吉田 ソサエティ5.0とは、人工知能・AI、モノとインターネットを結ぶIoT、ビッグデータという現代の「三種の神器」をあらゆる産業、社会生活で活用して、経済成長と社会課題を解決しようというものです。
新技術にはリスクも
吉田 新たな技術は県民福祉の増進にこそ活用すべきと考えますが、新技術の核となるビッグデータは、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)という巨大企業が占有しており、情報操作や情報漏えいなど多くのリスクを抱えています。
諸刃の剣に
―諸刃の剣ですね。
吉田 さらに総務省の研究会は、「AIやロボティクスによって処理することができる事務作業は全てAI・ロボティクスに任せ、半分の職員数でも担うべき機能が発揮される自治体」をめざす方向性を示しています。新たな技術が、人員削減や賃金引き下げなど職員の労働条件切り下げに利用される恐れがあります。
PCより教員増を
―文科省は全ての児童・生徒に1人1台のPC導入も打ち出しました(表3)。
吉田 文科省は、事業効果について「個別最適化した教育の展開が可能になる」と説明します。言葉を替えれば「一人一人の『身の丈に応じた』教育」です。子どもたちが集団で活動し学びあう場を奪うことにつながる恐れもあります。さらに、PCに長けた教員ばかりではなく、使いこなすための研修などが必要となり、多忙化に拍車をかけることになります。新年度も教職員定数は全体で179人も減らされます。教育現場が切に求めているのは、教員の増員です。急がれるべきはICT整備ではなく、教員の大幅増員です。
(続く)
(2020年3月22日付・山口民報掲載)