(続き)
県立下関中等教育学校(前期課程)は、どのような教科書を希望していたのでしょうか。
下関中等教育学校が「歴史的分野」に希望したのは「帝国書院」
同校の「研究調査報告書」は社会(歴史的分野)の望ましい教科書の要件は、①見開き単位時間の紙面が「導入資料」「学習課題」「本文」「学習内容のまとめ」という流れで構造化されている、②多面的・多角的に考察したり、歴史に見られる課題を複数の立場や意見を踏まえて思考・判断する力を育成できるよう様々な研究成果が反映されていることが望ましい、としています。
県の「教科用図書選定審議会」の答申で、この要件に合致しているのは、「帝国書院」です。
同審議会の「答申」で「帝国書院」は、①1単位時間の紙面が「導入」「学習課題」「本文」「確認しよう」「説明しよう」の展開で構造化され、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得できるようになっている、②様々な立場を踏まえ、多面的・多角的に考察する機会が重視されている、などと評価されています。
「公民的分野」は「日本文教」か
また、同校の「研究調査報告書」は社会(公民的分野)の望ましい教科書の要件は、①写真やグラフ、図解等が豊富に掲載されている、②生徒が主体的に社会に関わろうとする態度が養われるよう現代社会に見られる課題を多面的・多角的に考察できるように取り上げた記述、などが望ましい、としています。
県の「教科用図書選定審議会」の答申で、この要件を一番、満たしているのは、「日本文教」です。
同審議会の「答申」で「日本文教」は、①社会の諸課題について、多面的・多角的に考察する場面が設けられるとともに、考察する際の参考となるモデルやチャートが提示されている、②生徒が主体的に学ぶことができる構成となっている、などと評価されています。
県立高森みどり中学校と同様、下関中等教育学校の希望も踏みにじられたのです。
県教委が育鵬社を採択した理由は、郷土への「誇りと愛着」
ちなみに、現場が希望する教科書とは違う育鵬社の教科書を採択した県教育委員会は、育鵬社を採択した理由を次のように説明しています。
「郷土に誇りと愛着をもち、グローバルな視点で社会に参画する人を育てるという観点から、広い視野で物事を考えることができるような資料が充実している」(歴史的分野)。
「郷土に誇りと愛着をもち、グローバルな視点で社会に参画する人を育てるという観点から、国際情勢等の現代的な諸課題について、様々な資料を関連付けて考察し、表現することで、生徒が判断力や表現力を養えるように工夫されている」(公民分野)。
現場無視は将来に大きな禍根
2つの県立中学校の「研究調査報告書」で歴史、公民教科書に「郷土に誇りと愛着をもつこと」を望む声は1つもありませんでした。現場の希望に反して、現場が希望しない教科書を採択した県教育委員会の決定は将来に大きな禍根を残すことは避けられません。
(終り、2020年9月7日、文責:吉田達彦)