県立中学校の歴史・公民教科書に育鵬社版を再び採択_2-1

 山口県教育委員会は9月1日、2021年度から4年間、使用する教科書の採択結果を公表。県立高森みどり中学校と同下関中等教育学校(前期課程)の歴史、公民は前回(2017年8月)に続き、育鵬社を採択しました。

岩国市・和木町に加え下関市も育鵬社を採択

ー防府市は育鵬社版から東京書籍に変更ー

 県内市町の10採択区の採択結果も出揃い、「歴史」教科書に育鵬社を採択したのは岩国市・和木町(前回と同様)、下関市(前回は帝国書院)の2採択区となり、前回、育鵬社を採択した防府市は東京書籍版に変わりました(右)。

全国では育鵬社版の不採択が相次ぐ

 他の都道府県では、日本の侵略戦争を正当化する育鵬社の歴史教科書、子どもを改憲に誘導する同社の公民教科書が各地で次々と不採択になっています。同社の歴史・公民教科書は、どちらも採択数1万冊(採択率1%)に満たなくなる可能性が強くなっています。

 政治的思惑による教科書採択に対する批判が強まり、教職員の意見を尊重する流れが大きくなったことが、今回の結果につながったと見られています。

「選定審議会」答申を参考に各学校が実施した「研究調査」報告書を元に教育委員会議で採択

 教科書採択は「右図」の仕組みで行われます。

 ①検定に合格した教科書目録は、県教育委員会に送付され、②県教育委員会は「教科用図書選定審議会」に諮問。同審議会の研究調査員は送付された全ての教科用図書ごとに「編集の特徴」、「学習指導要領との関連」、「使用上の便宜」、「その他」の4つの観点にもとづいて研究調査した結果を元に「答申」を作成し、県教育委員会に送付します。

 ③県教育委員会は、教科用図書選定審議会の「答申」に基づいて市町教育委員会等に対する指導・助言・援助を行います(県立特別支援学校・高森みどり中学校・下関中等教育学校は、各学校に対し指導・助言・援助)。

 ⑥市町教育委員会は「答申」と、⑤各採択地区で行われた研究調査を経て、作成された「研究調査報告書」を元に、教育委員会議で審議し、採択教科書を選定する。

 ⑥県教育委員会は「答申」と、⑤県立特別支援学校・高森みどり中学校・下関中等教育学校で行われた研究調査を経て、作成された「研究調査報告書」を元に、教育委員会議で審議し、採択教科書を選定する。

県教育委員会議が現場の希望を無視して育鵬社を採択

 前回(2017年8月)の県立高森みどり中学校と下関中等教育学校(前期課程)の歴史、公民の教科書に育鵬社が採択される過程では、異例の出来事が起こりました。

 両校は、県教育委員会に提出した「研究調査報告書」で、歴史、公民とも東京書籍の採択を希望していたのに、県教育委員会議(2017年8月20日開催)は、現場の希望を無視し、多数決(4対2)で育鵬社を採択したのです。

 その後、公開された同会議の議事録では、委員の1人が「南京事件」の記述を取り上げ、「『南京大虐殺』と書いているのは、東京書籍と清水書院ですね。…非常に偏りを感じております。『南京事件』を側注として書いているのが育鵬社と教育出版」と述べ、「そういうことで、育鵬社というのが、その立ち位置がいいと思います」などと発言していることが分かりました。

 2017年9月県議会で、社民党の佐々木明美県議が「両校が希望した教科書と採択した教科書が違っていたのではないか」と質したのに対し、原田尚教育次長(当時)は、「歴史・公民2種目については、両校の想定するものとは異なった教科書を採択したものと捉えています」とあっさりと認めました。

 また、「現場の希望と違う教科書を採択した理由」については、「両校の研究調査報告書の記述や教育課程等を踏まえた上で、本県の教育目標の実現に資するという視点から、採択権者として最もふさわしいと判断した教科書を採択したものです」と答弁しました(2017年9月30日)。

公表資料をもとに、今回の選考過程の推察も可能

 来年度からの県立高森みどり中学校と下関中等教育学校(前期課程)の教科書選定が行われた県教育委員会議(8月21日開催)の議事録は未公表(11月初旬公表予定)なので、詳しい経緯は不明ですが、県の「教科用図書選定審議会」の答申と、両校が県教育委員会に提出した「研究調査報告書」を付き合わせると、両校が、どの教科書を希望していたのかを推察することができます。

県立高森みどり中が希望した歴史教科書は「東京書籍」

 県立高森みどり中学校の「研究調査報告書」は、社会(歴史的分野)に望ましい教科書の要件として、①学習内容を多面的・多角的に考察することができる工夫が施されている、②社会的な見方・考え方を働かせた問題解決学習を多く仕組むことになるため、現代的な諸課題との関連を図りながら学習につなげる工夫のみられるもの、をあげています。

 県の「教科用図書選定審議会」の答申で、この条件に則しているのは「東京書籍」です。

 同審議会の答申で「東京書籍」は、①学習内容を多面的・多角的に考察するページを設けている、②現代的な諸課題を取り上げ、社会的な見方・考え方を働かせた問題解決的な学習が展開されることを意図して編集されている、などと評価されています。

公民教科書も「東京書籍」

 また、同校の「研究調査報告書」は、社会(公民的分野)に望ましい教科書の要件として、①社会的な見方や考え方を磨き、主体的に社会に関わろうとする態度を養う工夫がみられるもの、②生徒が主体的に学習活動を行うことができるような工夫がみられるもの、などをあげています。

 県の「教科用図書選定審議会」の答申で、この条件に則しているのも「東京書籍」です。

 同審議会の答申で「東京書籍」は、①社会的な見方・考え方を働かせた、問題解決的な学習プロセスが重視されている、②主体的に社会に関わろうとする態度を養う工夫が見られる、などと評価されています。

 歴史、公民教科書の選定にあたって、前回と同様に、県立高森みどり中学校の希望が無視されたことは明らかです。

(続く)

(2020年9月7日、文責:吉田達彦)

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