下関北九州道路・3ルート案提示ー中国整備局や山口県

安倍首相への“忖度”で復活した下関北九州道路

 “忖度”道路として、安倍政権が復活させた下関北九州道路について、国交省九州・中国両整備局は7月15日、社会資本整備審議会・道路分科会「第1回中国・九州地方合同小委員会」をオンラインで開催し、下関市側の旧彦島有料道路と北九州市側の北九州都市高速道路をとを結ぶ、3つのルート案が提示されました。いずれも吊構造の橋梁案が妥当との方向性が示され、今後、地元や関係機関の意見聴取などを行い、新規事業化にむけての方針案が検討されます。

整備費は2,900億円~5,200億円と試算

 第1案「臨海部迂回ルート」は「臨海部の産業拠点の連絡性を高める案」で、日本海側を通って都市高速若戸トンネル付近とつなぐルート。延長約12㎞、うち海峡部約2.8㎞は、ともに3案で最長。整備費も4,200~5,200億円と最も高額です。

 第2案「集落・市街地回避ルート」は小倉都心部の北西につなぐルート。延長8㎞で最も短く、うち海峡部は約2.2㎞、整備費は2,900~3,500億円で最小です。

 第3案「海峡渡河幅最小ルート」は延長約10㎞で、うち海峡部は約2㎞と最小ですが、市街地などを通るため建物の移転が多く見込まれ、整備費は3,000~3,600億円とされています。

両市中心部間の移動時間短縮効果は0~7分

 下関・北九州両市の中心部間の移動時間について、公明党の先城憲尚県議(下関市区)は2019年2月議会の討論(3月8日)で「下関北九州道路が実現すれば、下関市から北九州市中心部への所要時間は、現在の50分から約25分と、実に半分に短縮されます」と、その効果を強調していました。

 今回、提示された「ルート帯案の比較評価」での両市中心部間の移動時間は、第1案は、現況(28分)と「変わらない」、第2案は現況より「約7分短縮」、第3案は現況より「約6分短縮」と、その「効果」を予測しています。

 今後、九州・中国両地方整備局や山口・福岡両県、下関市・北九州両市の6者は、住民や企業へのアンケートなども踏まえてルート案を絞り込み、その上で国交省が方針を定めるとされています。

キッパリ断念し、整備費用と労力はコロナ禍の課題解決に

 《解説》山口県や下関市などの推進派は、下関北九州道路の必要性について、①下関・北九州両市中心部の移動時間短縮、②本州と九州を結ぶ高速物流網の整備、③関門橋、関門トンネル通行止め時の代替機能の確保、などをあげてきました。

 今回の「3ルート帯案の比較評価」を踏まえれば、①の移動時間短縮の「効果」はわずかなものに留まることが明らかにされました。

 ②の高速物流網の整備には、今回、示された2,900~5,200億円の整備費用に加え、下関市側の旧彦島有料道路と中国縦貫道を結ぶ新たな高規格道路の建設が必要となり、その整備費用は少なくとも1,000億円を超えるとみられます。

 ③の代替機能については、今年7月8,9の両日、関門橋が制限雨量を超えて通行止めとなり、関門トンネルの事故通行止めも重なったことによって大渋滞が発生したことを受け、下関北九州道路の必要性が高まったといわれますが、同道路も橋梁として計画されており、大雨時には、関門橋と同様に通行止めになることは必至です。

 この点について前田晋太郎下関市長は7月13日の定例会見で「ベストなものを造るために橋が本当に良いのかということを丁寧に議論する必要もある」と言及しました。

 大雨や強風、降雪などの悪天候の影響を受けにくい「トンネル案」は、これまでも検討されてきましたが、今年3月26日の「第2回下関北九州道路計画検討会」(国交省、山口県など)の検討結果において「トンネル案」は、①海峡部に活断層が存在する可能性がある海底トンネルとなるため、断層変位に対して止水性を確保することが必要、②地質(断層)調査が、トンネル全線に渡り、航路内での調査も必要であるため、期間が長く、航行船舶への影響も大きい、③断層変位が生じた場合、止水性の確保への対応に課題がある、として、橋梁案が選択されたという経緯があります。

 整備費用が膨大となり、移動時間短縮も期待できない、橋梁では災害時の代替機能を果たせない、かといってトンネルは技術的課題が解決できないー八方ふさがりの「下関北九州道路」はキッパリと断念し、その労力と財源は、コロナ禍の様々な課題解決に振り向けるべきです。

(2020年7月19日)

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